あまたの女性を袖にする男になってみたい。
そんなゲスな願いを叶えてくれるのが、永井荷風作『放蕩(「ふらんす物語」収蔵)』です。

明治の文豪永井荷風がフランスに滞在した経験から書かれた本作。
この「ふらんす物語」、初版は「風俗を壊乱するもの」として発禁処分を受け、陽の目を見たのは60年後であったという逸話を持ちます。

外交官である小山貞吉は、パリにある帝国大使館の事務として働いていました。
あまりお金もないまま街をブラブラしていた彼は、偶然入ったレストランで一人の女性と出会い、関係を持ちます。
彼には別にアーマという女性がいましたが、どちらにもあまり心がない様子。
アーマの優しさにほろりと来たり、レストランのロザネットに情熱的に迫られて困惑したりしますが、
貞吉は基本的に自分を愛してくる女性に対して冷淡です。

パリのお洒落な街並みの中で、女性の一方通行な情熱とそれに冷淡な貞吉。
貞吉なりに愛とは何かと考えたりもしていますが、実感が伴っているようには見えません。
もしかしたら現実ってこういうものなのではないかとちらと想像すると、寂しさを覚えます。
華やかな放蕩を淡々と描く本作。
短編なので、少し時間が空いた時にぜひ。